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めもめも ...〆(。_。)

認知心理学・認知神経科学とかいろいろなはなし。 あるいは科学と空想科学の狭間で微睡む。

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基本的に研究用めもぶろぐだし、読むひとも基本的に研究関連の話を期待しているのは重々承知なのですが。
ざんねん!今日はSFの話だよ!

ぶっちゃけSF話がこのめもぶろぐの中では一番需要がないっぽいのですが、それでもSF成分がないと現実のサイエンスにも挑む気力が湧かないんですよ。

なのでSF。そんなときこそSF。

今日はグレッグ・イーガン『宇宙消失』です。


これ、ひとことで言うなら「よくわかる量子力学」かと。
いやまあ量子力学の専門書にはぜんぜん及ばないのは当たり前なんですが、それでもSF的な描写、SF的飛躍ですげーわかりやすいっていうかわかった気になります。
この翻訳版ならガチ物理学者の解説もついてるしね!
物理学者も絶賛する物理SFですよ。
訳者あとがきによると、「いらないといわれても、この本は友だちに押しつけてでも読ませろ」と評されたこともあるとか。
納得の読み応えです。
わたしも繰り返し読んでます。
ていうか、日本語書くのにたいそう疲れたときに読みます。

基本的にわたしはことばを食べてことばを排泄するので、日本語の文章書くときは日本語の文章を読まないと調子が出ないんですよ。
日本語だといろいろおもしろい小説や評論がわかってるからやりやすい。
おんなじように英語もばりばり食べてばりばり排泄できるようになればいいんですが、英語を咀嚼する能力・消化する能力が未熟だからなあ…
おもしろくて読みやすい英語本を確保しとくといいのかもしれない。
SF翻訳読んだことあるのの原書でもいいのかもしれないな。

まあそんなことよりこの本ですよ。
ネタバレなしに語れることはだいたい語ってしまったので、詳細な感想はつづきのところに書くことにします。







まあぶっちゃけ、「量子力学ネタ」っていうのもネタバレっちゃネタバレだよね!
とはいえそれだけでこのストーリーを予測できるひとはまずいないだろうけど。

SFのギミック的な部分は「よくわかる量子力学」だけど、ストーリーの部分をひとことで言うならば、「埋められない消失」だよなあ。
寄り添うひとをなくし、宇宙をなくし、また手に入るかのように見せかけて、届かない。
でも、それらを消失した孤独な状態が日常化してる。
感情が鈍麻している。麻痺してる。
なぜなら、そのように最適化されたから。

それを可能にするのが、神経モッドなわけで。
『宇宙消失』の中では、量子力学ネタはメインの柱になっているのだけど、それとはまた別の柱として神経モッドが頻繁に(というよりわりと中心的な役割を果たして)出てくる。
まあイーガンの話の中では神経モッドはわりとよくでてくるガジェットだけど。
でもこの話では、神経モッドで最適化されることへの反感、きもちわるさというのがわりと前面に出てる。
(それをメインに据えた短編もあったけど、長編となるとまた「そうせざるを得ないせつなさ」がひきたってくるよねえ。)
実際、主人公が「理屈の上で」神経モッドにとまどう場面もある。神経モッドについての反感を示される場面もある。
イーガンの描く世界では、神経モッドは日常の道具のひとつとして描かれている。
それでも、わたしたちが神経モッドに出会ったときに抱くであろう違和感も必ずセットにして。
そのへんが、イーガンの「リアリティ」なのかもしれない。


以下あまりにもネタバレなとこがあるのでネタバレ部分は白字にしときます。完全ネタバレがいやなひとはうまいこと目をそらしてそっとブラウザを閉じてね



量子力学ネタと神経モッドネタ、これは2つとも、主人公の(そして人類の)アイデンティティの問題となっている。
つまり、拡散状態にあるすべての「私」は「私」だけど、固有状態で選択されなかった「存在しなかった」ことになった「私」は固有状態で選択された「私」と同じであるのか異なるのか。
(主人公は「異なる」と感じて恐怖を抱いているようだが、読み手は「存在しなかった私」の物語を読むにも関わらず同一視してしまう)
そして、神経モッドで変化する「私」はモッドインストール前の「私」と同じであるのか異なるのか。
主人公は変化があろうと「同じ」であることを(ある種のかたくなさをもって)信じ(本人が心の底から信じているかどうかはともかく)ヒロイン(でいいのかポークウイは)に主張する。
ヒロイン?(ポークウイ)はモッドに反感を示し、モッドを使わねばならない主人公を哀れんでいる。
(うがちすぎかもしれないが、主人公の忠誠モッドは単にトンネル抜けしたのではなく、ポークウイあるいはポークウイ+主人公の拡散状態が、忠誠モッドのない主人公を選択したのではないかとわたしは思っている)
2つのギミックで、主人公のアイデンティティのあやうさが描かれているのだ。

さらに言うなら、(モッドの作用によるものだけど)「家族」を失ったこと、「喪に服す」という受容の儀式ができなかったこと、自分が望んでいないモッドによって仕事が変わったことなどは、社会的なアイデンティティを悉く破壊している。
主人公は、物理的にも生物的にも社会的にも、不安定な存在なのだ。

主人公が宇宙レベルで孤独で、物理レベルで不安定とか、こんなスケールのでかい不安な状態ないわー。
(まあ宇宙レベルで孤独なのは、拡散状態にない人類みんなに共通しているけど)
こんなでかい不安、やはりSFならではだなあ。



イーガンの小説の魅力は、どんな結末を迎えようともドライに日常を迎えるところにもあると思う。
泣いたり発狂したりしない。
受け止めて(あるいはただ受け流して)、SF未来を生きていく。
設定がどんなに突飛でアクロバティックでも、結局は淡々と生きてくしかない人間、どんなにSFギミックに溢れていても根本で変わらない(変われない)人間が描かれているから、空想とはいえ自分たちの延長上に感じられるんだろうなあ。

やはりSFも現実のサイエンスも、人間がいるからこそおもしろい!
そんなことを実感できた。
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