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めもめも ...〆(。_。)

認知心理学・認知神経科学とかいろいろなはなし。 あるいは科学と空想科学の狭間で微睡む。

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さて昨日に引き続き映画だ!
というわけで今回紹介するのは、愛されでぶことニック・フロストも出演しているという『アタック・ザ・ブロック』。


なぜかYahoo映画でだけ「SFコメディ」と紹介していますが(このページ)、他では「SFアクション」となっているので(このサイトとかウィキペディアとか)、これはYahoo外したな。
実際、コメディ色は薄めです。

ストーリーとしては大変単純で、ロンドン南部の治安のわるい団地(ブロック)にエイリアンがやってきた!不良少年たちが立ち向かう!というだけのお話です。
なぜこれが評価されているのか(評価されているらしいソース)というと、やっぱり組み合わせの妙といわゆる「アンダークラス」の描写に優れているからではないかと。

組み合わせの妙、ってのはもちろん、アンダークラスの不良少年とエイリアンというところですね。
この手の「こんなん組み合わせちゃったぜドヤァ」というのは映画においてわりと伝統的に存在するジャンル(?)というか、例えば、西部劇とゾンビとか、名探偵ホームズとクトゥルー神話とか、チアリーダーと忍者とか、まあいろいろあるわけですよそういうの。
本作品はそういう「組み合わせちゃったぜ」系列にあるのではないかと思われます。
つまりそういうのがお好きな方は必見。

もう1このポイント、「アンダークラスの描写」というのはそれなり前知識がないとぴんとこないと思う。
正直わたしもそこまで「ぴんときて」いるわけじゃない。
イギリス階級社会で一番下と言われていた「ワーキングクラス」のさらに下の階層、公的扶助に頼って暮らす「アンダークラス」についてそんなしたり顔で「理解した」ふりはできない。
あの国にほんの一瞬滞在したときに、大学に行けばミドルクラスなボンボンの集まり、買い物に行けば(おかねがないので)ワーキングクラスやアンダークラスの人々に混じるという生活をしていたわけで。
実際のところ、アンダークラスらしき人と直接接触したのって、夜の駅近くの道でなんか声かけられたときだけだと思う(逃げたけど)。
んでも短期間そんな生活をしただけでも、「階級」のにおいはぷんぷんしていて、びびりのわたしにもはっきり感じ取られるわけで。
んでもって、英語もろくにしゃべれない上に手持ちのおかねがないわたしは、ミドルクラスの世界に出入りするアンダークラスみたいなもんで。
空気というかにおいだけを感じ取っていたにすぎないのだけれど。
漫画好きな人に端的に説明するなら、『ぼくんち』の世界。
世事に詳しいひと向けに説明するなら、数年前にあったロンドン暴動の舞台。
そういうのが、この映画では実にみごとに(わたしのわかる範囲でだけど)描写されている。

これは別にわたしだけの思い込みってわけでもないらしく、わたしが愛読している英国在住日本人の方のブログでも、この映画はほめられていた(この記事)。
ていうかこのひとのブログや連載(これ)読めば、英国「アンダークラス」についてだいたいわかった気分になれるよ!
つまりこの映画を観る前に必読というわけだ。

ってか、SFぽさが前面に出ないなあ。
まあSF的理屈はあくまで味付け程度なのかもなあ。
「ろくに教育を受けてないアンダークラス」だから、そういう理屈の部分はわからないということかもしれん(そのへんもリアルなのかも)。
団地に出入りするミドルクラスっぽいボンボンだけが、科学っぽいこと言うというのもやっぱり教育格差を反映しているのかもしれない。

そういう英国の「階級」をSFのかたちを借りて描いた映画なわけですな。

これだけだとSF成分があまりにも少ないので、続きのところにネタバレ含めて書く。
続きネタバレ注意。





いやほんと、ものっそいネタバレなので、未見のひとは読まないほうがいいです。




この映画のSFなところといえば、エイリアンなわけですが。
エイリアンが主人公を襲う理由は、「エイリアンのフェロモンだ」とされているのです。
んが、ミドルクラスのボンボンの説明は単純な性フェロモン。
それだとエイリアンの凶暴性の説明がつかねー。
エイリアンの行動を見る限り、スズメバチの「呪いフェロモン」(フェロモンを浴びせかけられた生物に攻撃する)とごきぶりの「集合フェロモン」(フェロモンが撒かれたところに集まってくる)の合わさったやつなんじゃないかと思う。
いくらミドルクラスでも、アンダークラスであかんはっぱを扱ってる連中にまじってあかんもんをたしなむようなやつの教養はたかが知れている、という描写だとしたらこれまだえぐいギャグだなあ。

あ、「エイリアンには目がない」ということが何回か言及されますが、これはフェロモンなどをつかっていわゆる「嗅覚」を主に外界の知覚手段としていることの伏線になってるんでしょうね。
んでもって、昆虫に見られるような情報処理様式=そんなに知能はない、という設定っぽい。
まあ宇宙から飛来するものみんな高度知的生命体である必要はないわな。
知的生命体だと高度情報処理を担う部位(ヒトでいえば脳)がえっらい弱点になっちゃうしなあ。
ってもこの映画のエイリアンも別に防御力高くはないんですが。
攻撃力がやたら高く、防御力が紙装甲という、まるで女子中学生のようなスペックですな。


あと、主人公が強盗したヒロイン(すげえ字面)に対して、「同じ団地の住民とわかっていたら強盗しなかった」と謝罪(これが謝罪になるのもすごいが)するシーンは、アンダークラスの連帯感を描写しているようで、「階級の壁こええ」となりますな。
「金を持ってるミドルクラス・アッパークラスならどんな目に遭わせてもいい」っていう独白だもんな。
でもそれがリアルらしい。

ヒロインについては、「彼氏はガーナで恵まれない子どもたちのためにボランティアしている」って言って、不良少年の一人に「イギリスの恵まれない子どもたちは助けなくていいの?」って聞かれるシーンが一番の見せ場かもしれん。
しかもその不良少年は白人系、いわゆる「ホワイト・トラッシュ」なのだろう。
「白人だからだめなのかな」的せりふもついてる。
(アフリカ系・インドパキスタン系)移民が公的扶助を受けやすいという現状を反映しているのか。
いちいち社会風刺なところが流石だぜ。
どうでもいいがヒロイン=看護師のたまごって、階級でいえばミドルクラスとワーキングクラスのどっちになるんだろうね。
どことはいわないがどこかのように医師まつりあげ看護師さげな世界だったら看護師はワーキングクラス扱いなのかもしれないな。
まあでも外国でボランティアなんて悠長なことしてられる彼氏はミドルクラスなのだろうけど。


社会風刺といえば、出色はやはりラストシーン。
主人公が捨て身の作戦に出て、最後助かったのはなんと国旗のおかげ。
イギリス国旗にぶらさがって死を免れるアンダークラスの少年、というだけでも暗示的なのに、そこに現れた警察(おそらくはミドルクラス?)はろくな事情聴取もなしに主人公を逮捕する。
(そういえば最初の逮捕シーンのときも、容疑後付でいきなり逮捕してたような気がする)
エイリアンの死体もろくに見ずに、ありきたりの「日常」の犯罪パターンに押し込めようとする警察に、ヒロインはちゃんと抗議する。
ちょっとした「階級の和解」なのかもしれない。
んでも主人公が逮捕されていくあたり、階級の壁がいかに高く根深いか思い知らされるラストシーンだった。

…やっぱSF映画として観るより、現代のイギリス階級社会映画として観るほうが興味深い気がするなあこの映画。

あ、例の愛されでぶさんですが、今回はほんとうにどうしようもないおっさんがどうでもよさげにしているという役割でした。
このひとは社会的にアレな人物を演じるのが本当にうまいなあ。

そんなかんじで、やっぱり夏の「パブをはしごしようとしたら世界が滅びる」映画が楽しみですね!
次はどんなだめ人間を演じてくれるのでしょうか。


ろんどんはほんとうにこわいところだなあとおもいました。
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