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めもめも ...〆(。_。)

認知心理学・認知神経科学とかいろいろなはなし。 あるいは科学と空想科学の狭間で微睡む。

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今回のはあまり古くない&どちらかというと感想サルベージ。
伊藤 計劃『虐殺器官』


なんか話題になってたことは知ってたんですが、「ふーん売れてるんかねーふーん」と、人気のある本は敬遠しがちな天邪鬼のせいで実際には読んでなかった。
でも去年出国するときに空港の本屋にある早川さんがこれと同じ作者の『ハーモニー』しかなかったのですよ。
ふーんじゃあまあ読んでみるか。
と思ったらこれがわりとあたりだった。

ねちこいグロ描写とか青臭い実存主義とかはどうでもいいのだが、911以後としてのモノガタリ構築はなるほどなー、と。
それよりもSFガジェットとしてチョムスキーやらダネットやらを下敷きにした「虐殺器官」そのものが面白い(わたし自身はアンチチョム主義なのでこの名前が出たとたんに暴言を吐く仕様になっていますが気にせずスルー)。タイトルに冠せられるだけにこれがメインディッシュなわけですが、なるほどこれは味わい甲斐がある。
「器官」とはいうものの、作中に出てくる単語で我々が馴染み深いもので言うならば「モジュール」が適当かと。
イーガンもいいけど神経科学者はこれ読んどくべきだろ。

以下どうしてもネタバレな部分があるので隠す。

わたしが感じた『虐殺器官』の面白さを語るには、メインガジェットの「虐殺器官」の正体について語らねばならんのですが、これが最初にわかってしまうとモノガタリを楽しむのにちょっぴしスパイスが足らなくなる。
ので未読の方はわたしのくだらぬ感想なぞ読まずに本文にあたられたし。

どっからもってきたん&またもや非SFで。

森村誠一『虚構の空路』


ふっる!
飛行機ミステリという(当時としては)新たな試みなわけですが、いかんせん今読むといろいろ違いすぎて「???」となる。
パスポートが回数制のがふつうとか。
あと空港のしくみいろいろ。

ただ、前提条件をのみこんでしまえば、トリックとしては「おおーなるほどー」と思える。
理屈自体は古びてない、というか、ミステリとして流石!というか。
アシモフなんかのSFミステリもそうだけど、基本的にミステリって前提があって謎があって謎解きがあるものだから、前提さえすぐ飲み込めるようになってれば、時代が違おうが文明が違おうがわりとおもしろく読める(よっぽどのアレなトリックでなければ。まあアレもんの場合は、逆にそのアレ具合を楽しむことになるわけですが)もんなんだねー。
ただ前提をうまく読ませてくれる作家じゃないとしょんぼりしそうだけど。
まあ有名どころではその心配もないか。

あとやっぱりどろどろするね。人間とかいろいろ。
基本的に事件(たいていは殺人事件)が起こってるわけだからいわゆる「ひとの心の闇」話になるんだししかたがないけれど。
そういう意味では前に触れた「イリーガル・エイリアン」は実にさっぱりした殺人事件(笑)だといえる。
エイリアンのこころのありようとか殺人動機とかがどんなもんが妥当なのか、考えてみるのもおもしろいな。
・・・って、結局SFネタに戻ってしまった。
まあSFラヴァーゆえ致し方なし。

今回のはド古典。

ロバート・A・ハインライン『月は無慈悲な夜の女王』


ザ・古典!
今更感について言及するのも今更なレベルの古典ですね。
邦題は、原題の文脈をさらっと無視しているという点で批判されるべき翻訳ですが、でもこの叙情性捨て難しと思うのには全面同意。
むしろ邦題に合わせて一本書いて欲しいレベル。

ネタとしては「革命」です。
いかにして革命をうまいこと立ち行かせるか、という話なわけです。
ああー時代だなー、と思わされますねえ。
「革命」というものに対する無条件の肯定感が。
うちら9.11以後に生きてる読者だとそこはちょっとつまづくかな。
あと昔のSFだとありがちなんですが、原子力とかパネェ。水爆ぽんぽんつかう。
それもああー時代だなー。
あ、でも現在に至っても原水爆ぽんぽんつかう映画とかあるか。
まあそこらへんは時代に追いついてない製作者がいるのでしょう。

あとも1こだいじなのが、「意識をもつコンピュータ」というテーマ。
んが、これけっこーだいじなとこなのにあっさり流されてるー。
強いて言うなら、「全体は部分の総和ではない」というところか。
それも古典と言えば古典だけど、ガジェットを楽しむのではなくモノガタリを楽しむ分には十分なのかもしれない。
まあ「意識を持つコンピュータ」のおちゃめっぷりは面白いのではないかな。
「人間ぽさ」の条件として「ユーモア」が筆頭にあがるのはアメリカ文化だなあ。
日本で描かれたらやっぱり「共感性」とかのが優位になるのではなかろうか。
このへんも含めて日本の読者は読みにくいのかもしれないな。
日本は「革命」に親和性がないし、「ユーモア」と人間性の関係にさまで重要性見てないだろうし。

そしてちょっとおもしろかったのが、コンピュータに管理されてる世界なのにディストピアものじゃない点。
むしろコンピュータに管理された上での理想郷獲得という話だもんな。
昔SFといえばコンピュータ管理社会=ディストピアってのが定番かと思ってたけど、そうでもないのも当然あるんだねー。
まあコンピュータっていっても結局道具だからなあ。
とはいえ、この話ではコンピュータも意識を持つわけで。
コンピュータが意識持つ→人間イラネという思考に至る、なんてのも定番っちゃ定番だけどこれはそうはならなかったねー。
なんで定番コースをたどらなかったのか、といえば、「友人がいたから」だけど、『2001年宇宙の旅』だって友人的な存在である人間いたと思うんだけどなー。
親密さの違いか?

結局、さっきの感想に戻るのかもしらん。
「全体は部分の総和ではない」
と。

まあそこから「では全体がどのようにして現象をもたらすのか」を考えるのがおしごとなわけだけども。
むーつかしーいよねーえ。
今回めずらしく非SF。

宮部みゆき『火車』


宮部みゆき初期の代表的作品。
ミステリでありながら経済小説であり、クレジットが浸透し始めた頃、「サラ金」という単語が定着し始めた頃の経済の闇を描いた佳品。
なのだが。

結末に大いに不満。
ネタバレしないで不満の中身を述べると、かつて鴻上尚史が「白紙のモノガタリは美しい。だが表現者ならばその先を描くべき(意訳。鴻上さんは本当にあとがきが面白いよな!)」とかいってたまさにそのまま。
最後は「いやそっから先を書けやぁー!」というか「あれこれ上下巻だっけ?つづきドコー」となってしまったのですわ。
そこに至るまでの過程がとても面白かっただけに残念極まりない。
「直木賞とれなかったのが残念、評価者は経済部分が難しくてわからんかったんじゃね」みたいなことを解説に書いてあったけど、たぶんそんなことはなくって単純に「白紙の美は賞にふさわしくないだろ」ってことなのでは。
あれだ、漫画的に言うならば、「俺たちの戦いはこれからだ!」よりも「と、いう昔の話だったんじゃ・・・」のほうがモノガタリとしては上等なのですよ。
どんなへたっぴな表現者であろうとも、最後まで書ききったのであれば、それはどんな文豪の未完小説よりも(表現者として)素晴らしい。
まあおもしろさの観点からはその不等式は成り立たないにしても。

「これはミステリではなくて経済小説ですよ」という体であれば、この終わりは暗示的であり秀逸と言えるかもしれない。
でもミステリとして読んじゃったんだよなー。
単純にプロモーションの失敗なのかもしれない。

プロモーションの失敗といえば、浦沢直樹の『20世紀少年』という漫画はプロモーションの失敗であるというのがわたしの自説である。
あれは、「犯人当て」のモノガタリとして読むから「失敗」なのだ。
「ともだち」は誰なのか、その正解を探すミステリ的読み方をするとあのラストは面白くないだろう。
でも、わたしはあの漫画は「記憶」をテーマとしたモノガタリであると主張したい。
「ともだち」が誰かという謎は、記憶を掘り下げるための装置でしかない。
たいせつに思っていたはずの記憶の細部が、砂のようにさらさらと指の間を抜け落ちていたことへの哀愁。
それこそがこのモノガタリの主軸なのではないか。
でなければ、昭和という近い昔をカギにして、いわゆるオッサンどもの郷愁をかきたてる意味がない。
犯人当てモノガタリであれば、完全に現在を舞台にしてもいいし、または完全に近未来SFにしてもいいし、なんなら歴史漫画にしてもいい。
そうではなくて郷愁をかきたてる昔に重要な情報があるという設定が、読者(おそらくオッサン)自身の記憶を想起させ、そしてその記憶のあやふやさに愕然とさせるのだ。
メイン読者であろうオッサンたちよ、あなたがたは小学校の一時期ちょっと遊んだともだち(そして現在はもうつながりはない)の名前や顔をちゃんと思い出せるか?
そしてその「思い出せないこと」を小学生のときに予期できたか?
あれは記憶のこぼれ具合に愕然とするためのモノガタリなのだ。
そもそもなつかしむべき記憶の想起がない若者こどもたちが読んでもしようのないものだ。
「犯人がっかり」と口さがなく罵るこどもたちは、10年20年たってから読み返すべき。
そのとききみは、小学校時代の友人をみな完璧に思い出すことができるか?
そしてそのとき、きみの胸に痛みは走らないか?
要はそういうことである。

まあ実際、アオリ文句などは犯人当てゲームのような様相を呈していたし、犯人当てに気をとられるのも致し方ないと思う。
わたしが「これは記憶のモノガタリだな」と思えたのは、雑誌連載で読まず単行本でまとめ読みだったのと、随所に見られる過去へのノスタルジーにいちいち反応していたからだろう。
後者はひとえに、ノスタルジー描写が魅力であり主軸であるブラッドベリを読み込んでいるからですね。
つまりブラッドベリ愛好者は『20世紀少年』をそういう系列のモノガタリとして読むべき。

んで、今回の『火車』をミステリ主軸として読んでしまったのは、普段わたしが経済小説を読まないから、経済小説が主軸である徴候をうまく拾えなかったからではないかな。
経済小説好きなひとなら、実にしみじみとラストを迎えられるのだろう。
経済に疎いわたしでは力不足だったというわけだ。
まああれだ、結局「あなたが食べたものがあなた」であるように、「わたしが読んだものがわたし」であるのだな。
こればっかりはしかたがない。

ということは、年取ればとるほど、今まで読んだ本によって本の楽しみ方が狭まったり広がったり深くなったり浅くなったりするのだろうなあ。
楽しみが(文字通り)しぬまで続くように、うまく本を読んでゆきたいなあ。
まあその前に、視力がそんなに低下しないように気をつけねばならんがな。
本読める程度に健康でいたいものです。

どんどんいくよー。

ロバート・J・ソウヤー『イリーガル・エイリアン』


某所での紹介「裁判して脱皮しました」はだいたいあってた。
まあ要するに、エイリアンを地球の法で裁けるのか?って話です。

エイリアンの造形がヒト型じゃない。
いろいろ生態が違う(これは話の核心にも関係する)。
よく考えたら当たり前のことなんだけど、ヒトと全然違うエイリアンっていうのが面白い。
古いSFだとほぼヒトとおんなじようなのか、SFとファンタジーが混じってるのだとファンタジーのヒトっぽい種族(エルフとかオークとか)がエイリアン、ってのがざらだもんな。
全然違う環境の星に住んでたらそりゃ全然違う生き物ができるわな。
でも想像の埒外にあるようなエイリアンを考えるのって楽しいよね!
気体でできた生き物とかありえないのかなあ、とか、ヒトが視認できないレベルの大きさ(おおきいほうもちいさいほうも)の知的生命体がこっそり存在してたらおもしろいなあ、とか。
おもしろいよなあ。

そういう点でも十分おもしろい(最初、相手が知的生命体かどうかをどうやって確かめるのか?ってなったときに素数をつかうとか)のだけども、話の核心はエイリアンを裁くこと。
地球人が殺され、エイリアンが容疑者にあがった。果たして真相は!?というのが本筋。
これについて詳しく語るとネタバレだから省略。
でもここの話がミステリとしてもおもしろいから、SFに不慣れなひとでもおもしろく読める。
これはまあ「読めばいいよ」としか言いようが無いな。

個人的にはやっぱりエイリアン造形のいろいろこまかいところがおきにいり。
なんかそういう生物学SFがすきなのかもしれない。
そういう方向で本を探してみるかな。
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