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めもめも ...〆(。_。)

認知心理学・認知神経科学とかいろいろなはなし。 あるいは科学と空想科学の狭間で微睡む。

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私事ですがちとおひっこしするので荷物をまとめるのにいっぱいいっぱい。

本読みの宿命、「自分の蔵書をいかにせむ」問題に頭を悩ませているところ。
ともに移動するのは厳選した数冊・・・いや十数冊・・・いや・・・(無限増殖)・・・あああ。
そもそも厳選するために読み直したりして準備がちっともすすまなかったりな!
なんという本読みあるある。

そんな中で、さんざ迷ったあげく「ともに移動する」カテゴリに入りそうなのが、ジョナサン・キャロルの『木でできた海』。


こいつは、去年の夏、とある国のとある空港で、暑さにうだりながら、かといって見知らぬ通貨の店で何かを買う気にもなれず、トランジットの飛行機がくるまでひたすら読みふけっていた本。
見知らぬ国の匂いと心細さと、モノガタリから受ける圧倒的な叙情とがないまぜになった記憶とともにある本です。
こいつの感想をばちとまとめておこうと思います。



この物語を一言で表すならば、「愛」の物語です。
ただし、最後まで読まねばその愛の所在はわかりますまい。

主人公・語り手は警察署長のフラニー・マケイブ、元が不良少年だけあって悪態をつくのはお手の物。
いわゆる四文字語なんぞがぞろぞろ出てくるへそ曲がりのオッサンを主人公に据えて、ここまで深い愛の物語に酔い痴れることがあるなんて誰が予想できようものか。

そしてもうひとつの軸が「時間」。
フラニーが巻き込まれてしまう“不思議”が時間に関するものなので、これは時間モノSFとみなせるわけだ。
ネタバレ承知で近いものをあげるとすれば、ハインラインの『輪廻の蛇』か。とはいえ『輪廻の蛇』は短編なので“謎”の解明が主眼になりがちで、『木でできた海』のほうはより豊穣な「時間を享受すること」の描写を楽しむことができる。
抽象的になりがちな「時間」であれども、主人公の視座から見るのであれば、それは具体的なできごとであり、むしろ「人生」という泥臭い単語のほうがふさわしいのかもしれない。

そう、「人生」。

まるでメロドラマのテーマのような「愛」そして「人生」が、ダークファンタジーの筆致で、思いも寄らぬところからあざやかに浮かびあがってくるのですよ。

謎解きのほうをメインに読むなれば、それは完全に解明されるわけではないので、肩透かしをくらうのは致し方ないでしょう。
ただ、文体を味わうことを主眼において、卑語飛び交うフラニーの物語にどっぷり浸るのならば、そこから作者の謳い上げる人間愛がきっと聞こえるはず。
正直、前回読んだキャロル作品『死者の書』azcog.blog.shinobi.jp/Entry/59/のイメージで、この作者は人間嫌いなのかと思っていた。
ところがどっこい、『木でできた海』のほうでは、罵り喚き悪態をつきながらも、溢れんばかりの愛が透かし見えてくるんですよ。
ネタバレ覚悟で言うならば、「若さ」と「老い」への罵倒とその下に透けている愛が。
「若さ」もひどいものだ。「老い」ももっとひどいものだ。だがどちらもすばらしく愛おしい。
だからこそ、悲劇的に見える結末ですら、心が温かくなる。
「若さ」を経て「老い」に向かう、ヒトの辿る道のなんと醜くも美しいこと。
森茉莉さんの影響で“ヒューマニティー”嫌いのわたしですら、この物語の愛については人間礼賛せざるを得ない。

まあ、こういう読みをしてしまうのには、きっと「若さ」と「老い」と両方を横目に見る視点が必要になるだろう。
「若さ」の真っ只中や「老い」の最中では、こういう読みはきっとできまい。

本読みの中では、ジュヴナイル小説なんぞをさして「若いときにのみその真骨頂を味わえる小説」なんて言い方をするものがあるが、キャロルはまさに「わたしたちの世代でその真骨頂を味わえる小説」なのではないだろうか。
「若い」といわれる年代を過ぎ、「老い」を遠くに望んでいる世代で。
・・・いやさすがにまだ「老い」は「遠い」と思いたいけど。
「このあたりの年代で体型が崩れてくるんですよ」と某2こ上の先輩が言ってたけど。

ともあれ、若いひとにはおすすめできない。
「ああ人生って折れ曲がってるよなあ」なんておっさんじみた感慨がつい溢れてくるようなひとが身近にいたら、ぽんと肩を叩いて、この本を貸してあげたい。
別に何にも楽にはならないけどね。
そういう小説。


どうでもいいですが、わたし好みのSFってアメリカものばかりですね。
ブラッドベリは一部アイルランドだけど。
もう少し多国籍展開が欲しいところです。

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